インタビュー

キャリア教育でベトナム人の価値を高めたい

キャリア教育でベトナム人の価値を高めたい

「日本はなぜ敗戦を乗り越えて、短期間で世界第2位の経済大国まで成長したのか?」

その理由を探るために日本へ留学した、ブイ・クイン・チャン(Bui Quynh Trang)さん。日本の「人材の強さ」をベトナムのキャリア教育で実現させ、ベトナム人の市場価値を上げていくことを目標にしています。日本とベトナムとの考え方の違い、ベトナムでのキャリア教育の重要性について聞きました。

戦後の高度経済成長の要因は「人材力」?

――日本語を勉強し始めたきっかけは。

姉が日本で留学していたので、話をいろいろと聞いていて始めました。特に日本人はすごく優しいと聞いていた影響が大きかったと思います。

日本はなぜ敗戦を乗り越えて、短期間で世界第2位まで成長したのか?この問いの答えとして「人材が強いから」ではないかと私なりに考えていました。それで留学するなら(比較していた)アメリカではなくて、絶対に日本だと思いました。

敗戦後どうやって国が復活し経済が成長してきたのか、その理由を探るためにも、日本の政治・経済が全て集まっている東京にどうしても行きたかったんです。

――日本へ行く前に不安はありましたか。

私は基本的にポジティブな性格なので、不安はありませんでした。姉も日本にいましたし。私が日本に行ったタイミングは東日本大震災の直後。「(日本に行くのは)辞めた方がいい」と言われていました。

ただ、例えまた震災があっても、日本にいる1.2億人の人たちは大丈夫なのだから、自分も大丈夫だろうと思いました。

私も強い意志を持っていましたので、皆の意見は聞かずに押し切りました。そうして2011年4月から、日本で留学生としての生活がスタートしました。

力仕事をするために日本に来たのではない

――日本に来てつらかったことは。

一番つらかったのは、日本語学校に通いながら、世田谷区のスーパーでお惣菜販売のアルバイトをしていた時です。職場にいるのはほとんどおばあちゃん世代で、とにかく日本語が聞き取りにくい。おばあちゃんたちも外国人には慣れていなくて。

重いものを運ぶ仕事は全部やらされて、日本人とは話すけど、外国人の私には話しかけてくれない。仕事を間違えたら、もので殴られたりということもありました。今はもうそんなことはないのではないかと思いますが。

でも、そこでめげずに、自分が日本へ来た目的をさらに明確にして乗り越えることにしました。「私はこんな力仕事をするために日本に来たのではない。」勉強しないと上に行けない。認めてもらえない。だから仕事をしながらも、しっかりと勉強に集中しようと決意しました。

――なぜそこまで頑張れたのですか。

日本で勉強して、いつかベトナムで自分のビジネスを持つという思いがずっとありました。当たり前ですが外国人は日本で生活するのは難しい。日本人から信頼を得るためには勉強するしかない。日本語も、それ以外の知識も勉強するしかないと、ひたすら勉強をしていました。前向いて頑張るしかない。とそれしか考えていなかったと思います。

そこからは興味のあったホスピタリティが学べるホテル・ウェディング系の大学へを目指し、晴れて一般入試に合格して入学することができました。

国の発展とともにサービスの質は向上していくものなので、サービス経営というのは今後すごく面白いのではないかと思ったんです。ベトナムはまだ発展途上国で、これからいろいろサービスを展開できる国なので、日本で学んだことをベトナムで活かせたらいいなと思っています。

――日本人のクラスメイトとはうまくいきましたか。

もちろん日本の大学なので、クラスに外国人が多くいるわけではありません。

日本人は外国人をみると「出稼ぎ」で来ているというイメージが強いので、日本人の学生たちとは最初はなかなか打ち解けることができませんでした。

でもある時、単位をたくさんとって優秀な成績を取ると、日本人のみんなは認めてくれました。そして仲良くなり、友達になってくれました。

遠慮せず何でも指摘してほしい

キャリア教育でベトナム人の価値を高めたい――影響を受けた方はいますか。

はい。大学在学中から留学機関でインターンシップをするようになりました。そこで出会った大村さんがとても影響を受けた方です。

他の日本人であれば「大丈夫、大丈夫」って言いそうなことでも、「何でできないの?」と叱ってくれました。わからないと仕事も進めらることができませんし、外国人だから指摘されないと気づけないことも多いので、遠慮なく直接言ってもらえたことが本当にありがたかったです。

何よりも大村さんが私に期待をしてくれていることが伝わってくるので、自分のパワーをどんどん発揮することができました。

そうして日本人のお客さんとのやり取りも任せられるようになりました。ただ、メールは送る前に必ず添削してもらいました。「最初は誰でもわからない。でもやらせてみないと進まない。」という大村さんの考えもあり、大学生ながら、ベトナム出張に行かせてもらったり、プロジェクトを進めたり、まるで社員並みに働かせてもらえました。

――最近では日本で働く外国人の方も増えていますが。

外国人を雇う場合は、やっぱりコミュニケーション量を増やした方が良いと思います。遠慮しないで、何でも言ってもらいたいです。ミスをしても何も言ってもらえないと、逆に外国人はなぜ教えてもらえないのだろうか、とか、外国人だから教えてもらえないのではないかと、距離を感じてしまいます。

だから、その距離を埋めるためにも、最初は日本人から積極的に話してもらえるといいと思います。外国人も最初は日本語が下手なので、どうしても口数が少なくなりがちです。だからまず、日本人が聞いてあげないと外国人も自分から聞かない。お互いに聞かないと誤解が生まれるじゃないですか。

教育でベトナム人の価値を高めたい

――なぜ日本で就職せずにベトナムに帰国したのですか。

ベトナム出張の機会をいただいた時、私の母国をもっと良くすることができるんじゃないか、ベトナムを人材力で強くしていきたいと思うようになったからです。

ベトナムではまだキャリア教育が普及していません。今の時期が自分にとってはチャンスだと思い帰国しました。

ベトナムの人はすごく頭がいいんですよ。ただ適当すぎることも多い。だからもったいない。今は安い賃金で、外国企業がベトナム人を採用しています。これからはもっと、ベトナム人の価値を上げたいんです。

帰国後は、大学で受けたキャリア教育の授業内容と、独自に調べたインターネットの情報をもとに、ベトナム人向けのキャリア教育の教材をつくりました。ベトナムの学生に試したらとても喜んでもらえて、そこからスタートしました。

ベトナムでは、まわりから言われた通りに勉強するだけの受け身な教育が主流です。日本では就活生が行う自己分析というものがベトナムにありません。

自分自身、何がやりたいのか、何が得意なのかを把握している人は少ないです。それらを見つけて分析して、キャリア形成の計画をつくる。そうすることで、自ら積極的にやりたいことを学べるようになり、学びの受け身体質を改善することができると考えています。

――今後の目標は何ですか。

ベトナムで、キャリア教育を普及させることです。キャリア教育は、日本では珍しくないですがベトナムには普及していません。キャリア教育自体、理解してもらえるまでに時間がかかるし、売上もなかなかたたないことが多く、当初はかなり悩みました。でもそのときに、学生からの「ありがとう」という言葉をもらい、私たちのやっていることは正しいと思えるようになりました。学生の未来が、もっとわくわくできるものになったらいいなという想いで続けています。

最近ではおかげさまで大学からキャリア教育の依頼が増えてきています。少しずつですが「キャリア教育」の重要性が浸透してきたかなと思います。今後は、キャリア教育以外にも、育った学生を企業へ紹介する人材紹介業や、起業支援もしていきたいと考えています。

最終的には、ベトナム人や学生の価値をもっと上げていきたいです。人材が強くなればなるほど、企業の成長に繋がります。そして国全体の経済の発展にも繋がります。

これはベトナムで働いても、日本で働いても同じ。自分の価値を高めて発揮できることが重要です。価値を上げれば、企業も社会も認めてくれる。だから人のブランドを作らないといけないと思います。

――実際にキャリア教育を行ってみて何か気づきはありましたか。

ゴールが明確でないとやり方を間違えるケースがあります。例えば、日本語を勉強して日系企業で働きたいと言っている学生がいたのですが「どのような日系企業で働きたいか」と聞くと、具体的な企業名が答えられません。

細かく分析して、入りたい企業が明確になれば、注力すべきポイントがわかります。日本語の会話重視なのか、読み書きができればよいのか、それともITの知識が必要なのかなどです。ゴールを明確にし、最短距離でたどり着けるような方法を一緒に考えるようにしています。

日本に行きたい本当の理由を明確にしてほしい

――これから日本に行く人たちへアドバイスはありますか。

日本に本当に行きたい人だけが行ってほしいです。中途半端な考えで何となく日本というのはやめたほうがいい。でないと、何かちょっとしたトラブルでも、すぐに心が折れてしまいます。せっかく大切な自分の時間とお金を使うわけですし、採用する日本の企業の時間ももったいない。

人間は単純です。行きたいなら行けばいいし、やりたくないならやらないほうがいい。自分のやりたいことに対してなら責任が生まれます。結局のところ、責任がなければ仕事は成り立たないですから。

そのためにもキャリア教育を通じて、本当にやりたいことを考えることが大事だと思います。

ABOUT ME
鈴木萌
鈴木萌
すずきもえ・ライター | 旅行と空芯菜炒めをこよなく愛す。ベトナム好きが高じて大学在学中にOne Terraceベトナムで1年間インターン。復学した現在も、ベトナムを中心に、日本と関わりながら働く外国人のリアルを取材しています。