インタビュー

学んだ技術は使わない。でも日本に行ってよかった

学んだ技術は使わない。でも日本に行ってよかった

自身も技能実習生として日本へ行き、現在は技能実習生送り出し機関で教師として働く、4名の先生にお話を伺いました。日本から戻った今、何を考えるのでしょうか。

ディエップ(Diep)さん(32)
2015~2018年に岡山県の自動車ゴム部品製造工場で技能実習。家族は両親と兄2人。高校卒業後、7年間コックの仕事していた。給料が安く、家族を養うため日本へ。帰国後、現在は大学に通いながら送り出し機関に勤務。

クエ(Khue)さん(36)
2007~2010年に石川県の機械加工工場で技能実習。短期大学卒業後、アルバイトをして遊んでばかりいた。日本に働きに行きなさいと親から勧められて気付いたら面接を受けることになっていた。帰国後に大学を卒業し、送り出し機関に勤務。

トアン(Toan)さん(28)
2014~2017年に大阪府の水道メーカーで技能実習。大学卒業後、ベトナムで仕事が見つからず、技能実習生として日本へ。帰国後、送り出し機関に勤務。

ティエン(Tien)さん(23)
2015~2018年に大阪府のコンビニエンスストア向けの食品工場で技能実習。富士山や桜や着物が有名で子供のころから行きたいと思っていた日本。その景色や文化を体験したく技能実習に参加。帰国後、送り出し機関に勤務。

ベトナム技能実習生送り出し機関で働く、元技能実習生たちが語る日本

3年で400万円の貯金ができる。技能実習生として日本を目指した。

――日本へ行く前は、どんなイメージを持っていましたか?

ディエップ:技能実習生の送り出し機関で働いていた親戚に、日本へ行けば3年間で400万円貯金できると聞きました。東南アジアでは、日本が1番だと思っていましたし、法律や制度も他国よりはしっかりしているので安全な国のイメージはありました。

クエ:日本は経済が発展していますし、みんなとりあえず日本に行けばいい生活が送れると思っていました。技能実習生は、日本語の勉強や文化にはあまり興味がない人が多いと思います。

――実際に貯金はできましたか?

学んだ技術は使わない。でも日本に行ってよかった

ディエップ:実際に技能実習生として日本に行ってみて、貯金はできました。ただ、その分、仕事は大変でした。1か月70~80時間くらい残業をしていたと思います。日本へ行って、初めて工場を見た時びっくりしました。自分にできるかどうかわからない。すぐに帰りたいと思いました。ゴムを成型し、仕分けを行う仕事でしたが、重い、熱い、そしてきついゴムのにおいで、健康に良いとは言えないような環境で働きました。

3年が経過し、骨の中まで痛くなりました。毎日の作業で手が動かせなくなるほど痛かった。帰国して1年、今では痛みはなくなりましたが、事前にそのような環境で働くなんて聞いていなかったので、理想と実際は違うのだと感じました。

クエ:私は、200万円貯金しました。お金もそうだけど、色々な経験をしました。私も90時間以上残業をしていましたし、みんなお金のために我慢していました。

私の場合は、不況で仕事がなくなり、勤務は、週5日から4日、3日とどんどん減っていって、ついには週2日出勤にまでなりました。生活は苦しくなる一方だし、結局契約終了を待たず2年半で帰国しました。もう限界だったと思います。

――日本に来る前とのギャップはありましたか?

ディエップ:ベトナムよりもいい生活が待っていると思っていました。

クエ:実際に行ってみたら、生活も仕事も予想以上に大変でした。その仕事に対する知識や経験はありませんし、日本語もうまく話せません。

日本の生活に慣れるのにも苦労しましたね。寮はとても古く、トイレもない。日本の戦後間もない家のイメージです。日本での経験で身についたのは「我慢強さ」ですかね。

叱られたら謝罪をし、我慢すればいい。技能実習現場で起こったこと

――日本とベトナムの働き方を比較してどうですか?

クエ:ベトナム人と日本人の仕事の進め方は違いますね。ベトナムでは、それが誰の仕事であっても困っていれば助けますが、日本ではまず自分の仕事をやってくださいと言われます。自分の仕事への責任が強いです。

ディエップ:日本人は集中力がすごい。仕事中も全員喋らない。ベトナム人はしゃべりながら作業をすることが多いです。

クエ:日本人は我慢強い。夜勤のときも全然食べないし。

トアン:私の課長も毎日何も食べなかったです。コーヒーかビールだけ。日本人の他の社員も忙しい時は何も食べないことがよくありました。人にもよりますが、ベトナムは忙しい時でもちゃんと休憩を取ります。

――仕事で大変なことはありましたか?

クエ:管理人が厳しくてよく怒られました。ヘルメットをかぶっていたけど、叩かれたりして。

ティエン:研修生はよく暴力されたんです。私自身もですが、友達からもよくそういった話を聞きました。建設現場は特に多いです。最初は日本に来たばかりで仕事も慣れない、日本語もできないとすぐ怒られるし、暴力を振るわれました。あとはノルマ達成ができないとみんなの前で怒られる。

最初は悲しかったですけど、怒られたらまず「すいません」と言って、その後はひたすら我慢して聞くだけ。でも仕事に慣れて、できるようになったらだんだん上司とも話すようになって、以前暴力を振るわれた人ともご飯にいくまでになりました。まあこれはベトナムでも一緒のことです。自分の仕事ができないから怒られる。それだけなのかなと。

ティエン:私の会社は技能実習1期生20人が全員女性だったので、社員から暴力をふるわれるなどはありませんでした。組合も会社も良くて、ルールや習慣についてもちゃんと教えてもらいました。仕事は大変でしたが慣れたら楽しく働くことができました。ただ、残業が多くあまり勉強はできませんでした。残業は毎日午後10時まで、ときには24時まで働くこともありました。

クエ:会社外でベトナム人と会うのはダメと言われたこともありましたね。当時は外国人の偽装難民申請者が多くいて、それに巻き込まれて逃げられる恐れがあるからと。

ティエン:技能実習後のことですが、実は日本で通訳者の面接を受けて内定をもらいました。就職できると喜んでいたのですが、技能実習のときに提出した書類の経歴が勝手に偽造されていました。大学の卒業年度が早まっていたり、働いた経験のない溶接会社での職歴も追加されていました。ですので、日本で就労ビザを取るのは難しいと思います。とても残念です。

学んだ技術は使えませんが、日本へ行って良かったです

学んだ技術は使わない。でも日本に行ってよかった

――帰国後はどうでしたか?

全員:日本で学んだ技術は、まあ、ほとんどというか全く応用できるものはありません。日本語が少し上手くなったくらいでしょうか。

――日本へ行ってよかったと思いますか?

全員:良かったです。

クエ:私は我慢強くなりました。今のみんなの性格は、日本へ行ったからであって、日本で働いたことのない人と仕事するときは色々気になってしまう部分がありますね。

ディエップ:3年間で壁を乗り越えました。今は自分のスキルアップのため、働きながら大学に通っています。若い時に勉強のチャンスがなかったので、私は仕事で稼ぐためにもう一度日本に行きたいと思います。日本の生活や仕事が本当に好きなので。次は、通訳としていきたいです。

トアン:私は日本での3年間はいい思い出です。

クエ:私も30歳のとき大学を卒業しました。日本に行くなら旅行だけ。働くのはもう嫌かな。

技能実習生のビジョンと実態

――実習生はどんな将来のビジョンをもって日本に行くんですか?

トアン:家を建てる。土地を買う。自分の店をつくる。それから、通訳者・管理者・日本語教師・日系企業社員など、日本語を使った仕事に就くなどの目標を持って、技能実習生として日本に行く人が多いです。

ディエップ:技能実習生として日本に行ったとしても、日本で学んだ技術はベトナムでは全然使えないよ。(一同苦笑)

ただ、日本語を習得するという目的であればよいと思います。3年間、日本で働きN2、N3(注1)をとれば、たとえ日本での貯金が少なくても、ベトナムに戻ってからいい仕事に就くことができます。

クエ:最近では技能実習生が増えるにつれて、求められる日本語レベルも上がっています。2~3年前まではN4(注1)レベルでも仕事ができたけど、今ならN3は必要。これからもさらにレベルが上がっていくでしょう。

技能実習の目的は、「お金」と「日本語」だけ。今いる実習生の中には、お金のためだけに日本へ行くという人もたくさんいますが、帰国後の計画がなく、日本語もできないまま帰ってくると、結局ベトナムでまた失業してしまいます。仕事と勉強の両立は大変ですが、やはり日本語は勉強しなければなりません。

――申請書類には問題点が多いと聞きます

ティエン:とても問題が多いです。今でもなお、書類の偽造をして技能実習に行くベトナム人が多くいます。ただ、悪気があってやっている人ばかりではないということが難しいです。良かれと思ってやっていることもあります。(送り出し機関が手続きを行うので)申請書類の真偽は明らかになっていないし、実習生も自分の書類を確認することはできません。そのような事実を知っていたとしても、防ぐことは難しいです。正しい書類を出して、ビザが取れないことと、偽造書類を出して、3年間は日本で働くことができること。どっちが幸か不幸かは何とも言えないです。

ティエン:今は実習生が参加するフェイスブックグループがあって、そこで色々な相談や情報交換が行われています。今から、日本へ行く人たちは大体の情報を得ることができます。悪い情報ほどすぐに回るので、偽造書類のことも、もちろんみんな知っています。

「偽造書類を作っていることはよくない。」ですが、候補者たちも、日本で一時的にお金を稼いでベトナムに戻りたいという思いの人が多いため、自分の申請書類がどうなっているかなんて気にする人はいません。

でも3年間働くうちに日本が好きになって、また戻りたいと思うようになる人もいます。ただ最初の申請書類が間違っているから、再度ビザを取得することができません。実習生はみな、このような状況を、ある程度仕方がないと割り切っている人が多い印象です。

――これから、技能実習生として日本に行く人たちに向けて

ティエン:自分が日本で学んだことを教えてあげたいです。日本が好きだし色んな事を学んだから。でも、喧嘩しないように。ちゃんとルール守って。みんな仲良く。

クエ:私が実習生にいちばん教えたいのは、「我慢力」。時間・規則を守ること。技能実習生は学力も年齢もバラバラだし、それを一緒に教えるのは難しい。18歳から43歳までいます。色々教えても聞かない人もいますし、プライドが高い人もいます。みんな日本に行く目的がバラバラなので、全員が日本語を学ぶモチベーションがあるわけではありません。自分たちも、企業側も、その部分は理解しておく必要があると思います。

――インタビューメモ――
先生たちからは、自身の苦楽さまざまな経験を経て、少しでも生かしていってほしいという、先輩だからこその思いを感じました。実習生にとって何が大事なのか。正義だけをふりかざすのは必ずしも正解ではないのかもしれません。

注1:日本語能力試験(JLPT)とは

日本語能力試験は世界最大規模の日本語試験として、日本語を母語としない人を対象に、国際交流基金と日本国際教育支援協会が実施する試験。日本への留学、専門学校や大学への進学、就職などで、日本語能力を客観的に評価する指標として幅広く認知されている。

各級のレベルは以下の通り。

N1幅広い場面で使われる日本語を理解することができる。
N2日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。
N3日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる。
N4基本的な日本語を理解することができる。
N5基本的な日本語をある程度理解することができる。

日本語能力試験(JLPT)

ABOUT ME
鈴木萌
すずきもえ・ライター | 旅行と空芯菜炒めをこよなく愛す。ベトナム好きが高じて大学在学中にOne Terraceベトナムで1年間インターン。復学した現在も、ベトナムを中心に、日本と関わりながら働く外国人のリアルを取材しています。
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