ベトナムを出たかった。
――大手外資系企業に就職後、なぜ技能実習生という選択肢を選んだのですか?
就職した外資系企業では、とても高い給料をもらえましたが、ストレスが溜まっていました。
例えば、会社では一度犯したミスについて、過去のミスまでも何度も蒸し返され叱られ続けました。
プライベートでは、両親が私の時間やお金、生活に関するあらゆることを管理していました。自由になりたいという気持ちが強くなり、「海外にでれば、縛りがなくなる」そう思い、新聞や本を通じて日本に興味をもつようになりました。
――海外といっても様々な国がある中、日本に興味をもったきっかけは
その時、日本と韓国で行き先を迷っていたんですが、韓国ではどうやら男性に比べ女性が社会進出している割合が少ないことを知りました。
しかし日本は、韓国に比べて女性進出の確率も高い、働きやすい環境など、評判がとてもよく思いました。
実際、日本で勉強している友人から日本の生活や仕事状況を聞きました。その友人から、日本に行くと、日本ならではの働き方、仕事に対する姿勢や情熱など、ベトナムに帰ってから仕事に活きることが多いと聞き、最終的に日本に行こうと決断しました。
――実際日本に行ってどうでしたか。自由になれましたか。
自由になれました。とにかく、親の束縛から解放され、日本はとてもいい環境で生活にも何不自由なく暮らすことができました。リラックスしたせいで、少し太りましたね(笑)
日本人の真面目とは
――日本に行く前に、日本語の勉強をしましたか
はい。日本に行くまでに、N5を取得しました。その時は、まだ日本語で会話できるレベルではなかったです。すこし話せるくらい。日本に来てから1年間でN4に合格しました。
その秘訣は、日本と職場の環境にありました。仕事終わりに、会社の近くの市役所で日本語を学べる無料のクラスに必ず週3回夜に参加していました。仕事終わりや休憩中の空き時間はずっと日本語の勉強をしていました。
仕事の業務はとても大変でしたが、周りが日本人だったのでお昼休みの休憩や、仕事中も日本人と会話できる環境が整っていました。
――職場はどんな環境でしたか?
最初は、洗濯やアイロンをかけるなど簡単な作業だと思っていたら予想とまったく違いました。
洗濯するものは、ホテル用のベットシーツなのでとても重いものを運ぶような力仕事でしたので、とにかく大変でした。
またその洗濯には強い洗剤が使われていたので、手がかなり荒れてしまいました。ですが仕事をするうちにしんどいという気持ち以上に、この会社に対して愛情が生まれていきました。
理由は、会社の従業員のみなさんの暖かさです。部長はもちろん日本人の従業員は最後まで本当にみんな親切でした。あたたかく、本当に家族のような存在でしたね。
特に部長はとても私たちベトナム人に気を遣ってくれ、休日は必ずといっていいほど遊びに連れて行ってくれました。「好きな食べ物はなに?」「行きたいところある?」そういって普段からコミュニケーションをとってくれました。
そして特に嬉しかった出来事は、連続で休みを取れないかという無理な相談をしたときでした。部長は「すぐに大丈夫だよ」と、許可してくれました。それだけではなく、「一人では退屈だろう」と私の仲のいい同僚も同じ日に休みにしてくださったんです。なので、私たちは休暇を連続でとって一緒に日本を観光することができました。
休日がかぶることがあれば、部長が車で遊びに連れて行ってくれることもありました。本当に私たちに対する真心が嬉しかったです。部長が休みではない日には、他の日本人の同僚が「行きたいところを教えてね」とどんな場所でも連れて行ってくれました。本当に親切でしたね。
季節がかわり桜が咲く頃には一緒にご飯を作ってみんなでお花見をしました。本当にいい思い出です。かわりに、ベトナム人従業員でベトナム料理をつくって日本人のみなさんにご馳走したりしていました。そうやってお互いの文化のことを料理で振る舞い合うことができたのもいい思い出の一つです。
驚いたこととしては、日本人の仕事に対する真剣さでした。8時から仕事が始まるので、お弁当を作り毎日30分自転車で通勤でした。早起きがきつかったです。とても辛いなと感じていたのですが、出勤して驚くことがありました。
それは、私たちが着く頃には日本人従業員が職場を丁寧に掃除しているということでした。
そこで知ったのですが、大半の日本人従業員は、定時に作業を綺麗な状態で始められるように準備をしていたんです。本当に驚きましたね。その次の日から定時の20分前に向かうように心がけたんです。しかしそれでも日本人が出勤するのはもっと早かったんです。「一体何時に来ているんだろう…」と本当に疑問に思いました。
そして、掃除をしながら8時に仕事を綺麗な職場ではじめられるように準備を手伝いました。そこで「日本人って本当に真面目なんだなぁ」と、仕事に対して向き合う真面目な姿勢について、本当に尊敬しました。日本人の意識の高さには、本当に驚くことばかりでした。定時に綺麗な職場で働けるような職場づくりは、本当に大切なことだと思いましたね。
日本を経て今
――ベトナムへ帰国して、働いてみて変化がありましたか
帰国後は、日本に行く前に働いていた会社に就職し直しました。そこで変わったこととして、責任感とお客様第一という気持ちがより一層高まりました。それは、日本で学んだ仕事を全うする責任感に影響されたからです。今ではお客様の信頼を裏切らないように、1日1日責任感をもって管理者として勤めています。
――帰国後に、同じ会社で勤務しているということで、日本のどういった経験を今の仕事にいかせていますか
日本に来る前は、仕事で時間がルーズなことが問題でよく怒られていました、帰国後は遅刻はほぼ0。帰国後から時間に厳しくなりました。また変わったのは生活リズムですね。今でも、仕事終わりの空いている時間は勉強をするという姿勢に変わりました。
日本にいた時の勉強生活リズムが、ベトナムに帰国した今も活きていて、日本語を勉強するということが趣味から習慣に変わっていきました。
――現在も日本語の勉強をされていますか?
はい、現在でも週3回夜に必ず、趣味で日本語クラスに通って勉強しています。
今の会社は日本語を全然使いませんが、将来、自分の経営するカフェを開いて日本語交流会を開きたいと思っています。
日本語を話したいと思っているベトナム人が気軽にカフェに立ち寄れて、楽しく練習できる空間をつくりたいです。たくさんの日本語学習者が集まってくれることを期待しています。
初めて日本語を勉強するときはすごく大変でした。ひらがなとかたかなを勉強するだけでも2か月もかかりました。しかし、最初の日本語の難しさを乗り越えたら日本語が好きになりました。その日本語が好きになる気持ちをもっとたくさんの人に体験してもらいたいと思っています。
現在、仕事には日本語が必要ありませんが、日本語の勉強を続けています。帰国したいまでも、もっと日本のことについて詳しくなっていきたいです。
――最後にベトナム実習生に向けてメッセージをお願いいたします。
前向きで誠実な姿勢で、真面目に働いたら絶対に認めてくれます。なぜなら日本人の心はとても美しく、あたたかい方達だったからです。
職場が明るいと、どんな大変な状況でも過ごしやすくなるはずです。
大切なことは、日本人の皆さんが与えてくれた愛情を、自身も仕事とともに愛情で返すこと。その繰り返しで良い人間関係が構築されます。最後には、本当に大切な家族のような仲間と感じることができました。
私は日本でもう一度働きたいと感じ、留学生として日本へ行くチャンスをうかがっていました。でもそれは叶わないことがわかりました。なぜかというと技能実習生として日本に行くとき、送り出し機関に職歴偽造をされていたのです。
技能実習生として日本に行く時に、日本で簡単な仕事をすることは難しいので、偽造書をつくられることがあるそうです。私は大学卒業をしているにもかかわらず、高卒という書類に偽造されており驚きました。
もちろん留学の手続きをするときに偽造の書類を作られたと報告しましたが、もう留学と仕事という理由で日本に行くことができなくなってしまいました。それを聞いた時にはものすごくショックでしたが、私自身も日本に向かう前に情報を調べなかったせいでもあるので仕方がないと感じました。どうか次に日本に行くみなさんは気をつけてほしいと思います。
――編集後記――
日本に技能実習生として訪れたことが大きな転機となり、日本人の働き方やあたたかさに触れ、帰国後も日本語を学び続け、働き方にも良い変化が起きたNgaさん。
しかしその裏で、本人が知らないうちに送り出し機関による書類偽造が原因で、Ngaさんはもう日本へ仕事・留学をすることができない――
送り出し機関の不正行為が、その一人の人生を変えてしまう。技能実習生の光と闇を、重く受け止めた。

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