インタビュー

立命館アジア太平洋大学1期生、起業20年のベトナム人社長に学ぶ異文化マネジメント

立命館アジア太平洋大学1期生、起業20年のベトナム人社長に学ぶ異文化マネジメント

今回は、現在まで20年弱、日本・ベトナム両国と関わりながら多くの会社立ち上げ・マネジメント経験をお持ちの Nguyen Thai Ha(グエン・タイ・ハ)さんに、自身の経験に裏付けられた文化の違いを解決するマネジメント方法についてうかがいました。

行動力の源泉は自分

――日本へ行くきっかけは何ですか

高校生のとき、家で流れていた国営放送の教育番組をずっと見ていました。そのチャンネルではNHKの「プロジェクトX」という番組や、新幹線などの日本の技術に関する内容がいろいろと紹介されていたんです。

そこで、日本は第二次世界大戦後、ゼロからなぜここまで技術や経済が発展してきたのかに興味をもち、奨学金を見つけて日本へ行くことにしました。

――日本へ初めて来た時の印象を教えてください

空港に着いた時、空港の職員がずっと自分たちのバッグを見ているんです。聞けば、荷物の移動時にお客さんのキャリーケースが壊れていないかどうか確認し、破損時には修理・弁償までするといいます。そこまでのサービスをするのが日本か、と初日から衝撃を受けました。日本と他国のギャップはまさにここにあるのだろうと感じました。

――日本で、どのような経験を積みましたか

日本で、在日ベトナム青年・学生を集めた協会を設立しました。

私は立命館アジア太平洋大学に1期生として入学したので、初めての日本で教えてくれる先輩もいませんでした。

だから様々なことを自分で体験して理解するしかない。日本の体験談を集めて、その経験をシェアする機会も必要だと考えました。資金もない中で多くの方に会って設立の説得をして、最初はとても大変でした。

※VYSA(在日ベトナム学生協会)

http://www.vysajp.org/news/vysa/

ベトナムの青年と学生が生活や学業・仕事などにおいて互いに助け合い、健全な海外生活を送ること及び自国の文化を守りつつ日越両国の掛け橋になることを支援する。

現在は全国で14の 支部があり、ベトナム学生向けにスポーツ大会・文化祭・専門セミナー・就職活動支援イベント・各種趣味クラブなどを運営している。

――大学を卒業後はどのようなキャリアを選択しましたか

当時は外国人が日本で働くのは大変だったので帰国する人も多かったのですが、私は日本に残り、トライアルカンパニーで1年半ほど働きました。その後、縁あってベトナムFPTの会長・社長の来日時に、その人間性に惹かれ日本での立ち上げメンバーとして参加することになりました。

そこから今までに福岡、大阪、東京で2年ずつ、ベトナムに帰国後もハノイ、ホーチミン、ダナンと、大体2年くらいのスパンで場所と業界を変えつつ、12年間で6業界の経験を積みました。

昨年ハノイに戻って起業し、2年後はまた新規事業を始める予定です。

日本には「石の上にも3年」という言葉がありますが、インターネットが普及しインダストリー4.0の現在、同じ場所で我慢するという考えはどうなのだろうと思います。

「人間の行動の源泉はどこからきているのか」について調査した面白いデータがあって、10%は学校などで得た知識を、20%は友人・親・上司など他人による助言を、残り70%は自分で体験した経験をもとに行動しているそうです。

――結局、自分自身で考えて、体験したことが行動のエネルギー源につながるということなんですね

郷に入っては郷に従え!?

立命館アジア太平洋大学1期生、起業20年のベトナム人社長に学ぶ異文化マネジメント

――長年日本で生活し、日本人と関わりを持ってこられていますが、外国人が日本で生活するうえで大切なことは何だと思いますか

日本人と接していて、「これが正しい」と言われたならば、その正誤に関わらず、「日本人はそういう文化だからその通りにやってみよう」と割り切る考え方も必要なのではないかと思います。

もし外国人が日本に来て理解できないことがあったとしても、それは単に「文化が違う」からであって、とりあえずはある文化として理解し真似してみるということです。自分の国に戻ったら自国の文化で生活すればいいですが、日本にいる以上は日本の文化に合わせて仕事や行動をするべきだと思います。

これは誰かに教えてもらうのではなくて、住んでみて自分で体験したほうがはやい。まずはあまり深く考えないで、日本の文化はこれだと無理やりにでも合わせて見るのも手でしょう。

日本に行くときも、それぞれの地方の文化を理解して人との付き合い方を変えていかないとダメ。私が体験したところだと、福岡は優しいですね。東京は都会だしハノイみたいなので、やはり言葉に注意したり、必ず設定されたルールを守らないといけない。いい話は多いけど気をつけないとトラブルになることもある。

面白いのは沖縄です。ベトナムに似た考え方があると感じました。基本穏やかですし、他人に対してもあなたが困っているから私がサポートしますよというスタンス。気候が近いこともあるし、まったくではないですが仕事のやり方や考え方はほとんど同じだと思いました。日本人がベトナム人を理解するなら、手っ取り早い方法として沖縄に行ってそこで仕事してみるのも良いかもしれません。(笑)

沖縄の人がどうやって東京で働けるかを考えればヒントとなるように、日本とベトナムの文化の双方のギャップが分かれば対策ができますね。

立命館アジア太平洋大学1期生、起業20年のベトナム人社長に学ぶ異文化マネジメント

マネジメントに見る地域ごとの違い

――今までに、日本ベトナムを含め様々な地域でビジネスを経験されていますが、地域によってマネジメントに違いがあるのでしょうか

そうですね。言葉はもちろん歴史や環境的な側面から、その地域の人々の性格やスタンスも大きく変わってきます。

例えば、私が新調したシャツを着ているとします。友人がそのシャツをどこで買ったものか私に聞く時、ハノイの反応は「おお、自分も明日そのシャツを買うよ」ですし、ホーチミンなら「そうか。私はもうその店では服を買わない」となります。

北部のハノイはまわりに合わせる集団主義。一人でやるのは恥ずかしいからグループでやる。多分東京に近い部分があると思います。対して南部ホーチミンは個人主義。「俺は俺」で、周りは関係なく自分が好きなら一人でもやるという考えです。どちらかというと大阪っぽいですかね。

中部のダナンはどちらかというとハノイに近い。働き方はホーチミンで従い方はハノイ。歴史的にも新しい土地だし観光地でオープンマインドということもあって、仕事に関しては個人でも裁量をもってコミットすることができます。

このように、一括りにベトナムといっても人々の性格や行動は大きく変わるのです。

――なるほど。では具体的にどのようなマネジメントをされるのでしょうか

先の性格を考えると、ホーチミンなら給料が大事です。彼らの満足のいく給料とボーナスを提示すれば「私に任せて!」という感じ。自分が仕事にコミットするためなら上司でも関係なく意見します。ホーチミンは経済の中心地であり将来に楽観的な部分があるので、お金が入ればあまり先を考えて貯金はせず、娯楽に使う傾向が高いです。

対してハノイは首都ですし歴史的にも戦争が多かったことなどから、昔から明日はないかもしれないという危機感があって、将来を考えて貯金する傾向が高くお金の使い方にも慎重です。

ホーチミンなら条件さえ整えば個人プレーで任せられますが、集団を重んじるハノイであれば職場でも家族のようにように感じられる環境を作るとよいでしょう。

――日本企業の採用側も、ベトナム人であればその人の出身地域によって理解してマネジメントする必要があるということですね

ベトナムでビジネスを成功させるためにはその違いを理解しておいた方がいいでしょう。

例えば日本で働く技能実習生をみると、北部や中部の地方(ゲアンやダナン)出身の人の割合が圧倒的に多い。

特に田舎で何もないところからくると、モチベーションは高いし勤勉です。実際、日本で製造業を営んでいる知り合いの話だと、何百人とベトナム人を面接してきた中でも気付くと採用しているのは北部の人が多いそうです。このように、地域ごとの特性を理解して採用もしていくべきだと思いますね。

ストレスの少ない環境づくり

――日本で働く外国人が増加している中で様々な問題も浮き彫りになっていますが、現状どのようにお考えですか

外国と日本にはまず文化の違いがあります。その違いを解決するためには、ストレスがどこから発生するかを分析することが大事です。

人間は、自分のまわりの環境が変化することでストレスを感じます。例えば宝くじが当たったとして、急にお金持ちになり、それに伴って生活や周りの環境が変わる。お金を得たことは一見幸せですが、本人にとっては急激に周りの環境が変わることで大きなストレスがかかります。

だから重要なのは、自分にストレスのかからない環境をいかに維持するか、ということです。外国から日本に来て、場所や食べ物や環境が急激に変化することでストレスがあるのは当たり前。それに加えて慣れない仕事や言語の問題も発生してきます。

でも、そこで外国人を迎える側として、彼らの身の回りの環境づくりを意識することはできます。ベトナムであれば、少しでもベトナムみたいな環境を作れば、ストレスは少なくなる。

例えば、留学生用の寮を作るにあたってベトナムの家を参考にしたという例もあります。ベトナム人は家族や友人を自宅に招いてパーティーすることも多いですし、家は基本的に外に開かれていて、個別の部屋や細かい仕切りもあまりない、オープンな設計です。

また騒音問題が騒がれがちな日本ですが、家の壁を厚くすることで、仕事が大変でも友人たちと時間やまわりを気にせず楽しく飲み会ができるなら、ベトナム人にとってはそれだけでもストレスは減ります。

別の研究では、ストレスを解消するには運動がいいという報告もあります。ベトナムではフットサルが人気ですよね。ベトナム人は激しい対戦というものに燃えますから、社内でも積極的に運動を取り入れることも一つの案じゃないでしょうか。

彼らの様式を完全に再現するわけではなくても、生まれてから今まで生活してきた様式に少しでも近づけることで、人はストレスを感じにくくなるわけです。

やり方の決まっている日本の会社だと、いきなり働き方や会社のルールを急激に変えることは難しいかもしれません、というか無理でしょう。でも、先のようにまずは生活環境からはじめて、少しでも環境を変えることはすぐにできます。

日本の生活や仕事を一方的にあてはめて強制するだけではなくて、経営者側も彼らのことを理解する努力と改善をして、少しづつストレスを減らしていく。今できることはそうしたことだと思います。

ーーそこまで考えている経営者は少ないのではないですか

だからこそ外国人を採用するなら、まずは決定権のある経営者がその国に行ってみて、彼らの生活や環境を色々経験するべきだと思います。レポートを読めば書いてあるようなことではないからこそ、実際に行って、目で見て肌で感じてわかることがあるはずです。ベトナムにも、ぜひ一度来てみてほしいです。

 

立命館アジア太平洋大学1期生、起業20年のベトナム人社長に学ぶ異文化マネジメント

――インタビューメモ――

まずは自分で体験してみて、相手と自分の違いを理解した上で、そこを埋めていく工夫をする。一見当たり前で簡単なことのように感じますが、自分で経験することの重要さ、仕事に限らず、様々な場面で最も基本的でかつ重要なプロセスだと感じました。

これから外国人を迎える日本側にとっても、日本へ行く外国の方にとっても、お互いがストレスなく、気持ちよく共生していくためのヒントを多くいただいた取材でした。

 

ABOUT ME
鈴木萌
鈴木萌
すずきもえ・ライター | 旅行と空芯菜炒めをこよなく愛す。ベトナム好きが高じて大学在学中にOne Terraceベトナムで1年間インターン。復学した現在も、ベトナムを中心に、日本と関わりながら働く外国人のリアルを取材しています。