インタビュー

日本での就職からベトナムで起業するまで

グエン・ヴァン・ミン(Nguyen Van Minh)さんは、なんとなくベトナムの大学に進学し、なんとなく日本を目指した。日本語学校を卒業し、日系のIT企業に就職するも、すぐに運送業の営業職に転職。その後、ベトナムに帰国し、現在は日系企業のベトナム進出やITサービス企業を経営する。日本での体験からみつけたことについて聞いた。

元留学生ベトナム人IT起業家が語る日本

ベトナムの大学を卒業後、いきなり日本へ

――大学ではITを専門に学ばれていたんですよね?なぜ卒業後すぐ日本へ留学されたのですか?

兄が技能実習生として日本で働いていました。兄の見せてくれた、雪や桜など、日本のきれいな景色の写真やゴミの分別、お弁当食べ終わって捨てる前に、容器を洗って捨てるという日本の文化や習慣にも興味を持つようになりました。

僕の田舎の優秀な人たちでも、給料は安く、暮らしていけない様子を見ていたので、どこか海外に出て経験を積みたいと考えていたところだったので、兄の応援もあり、お金も貸してもらい、日本に行こうと決意しました。

――それはミンさんにとってかなり大きな決断だったのでは?

私自身はすごく軽い気持ちでしたね。だって大学でも全然勉強してなくて、辞めようかと考えていたくらいでしたから。ITが専攻でしたが、自分は大学に入学するまでPCを触ったことすらなくて、入学して初めて兄から中古のPCをもらったんです。

友人はみな高校のときからできた人たちばかりで、いくら頑張っても彼らには追い付けないと思って。諦めようと。

大学を卒業した優秀な先輩でも一番高い人で月給4万円。それで、これではお金持ちになれないと。

外国だとしても、まずは自分から飛び込む

――日本はどうでしたか。

日本語学校に語学留学をしたのですが、留学先には最初から東京を選びました。成田に着いて感動したんです。こんなきれいな国があるのかと。壁も道路も汚れやゴミがなくてきれい。裏道で寝転んでみたりして、わ、ゴミついてないってなって。

東京の日本語学校で日本語を学びながら、飲食店で接客のアルバイトをしていました。日本で最初にお世話になったのはアルバイト先の先輩たちでしたね。仲間に入れてもらって、一緒に遊びに行ったり、朝まで飲みに行ったり。そこで日本の文化、仕事への責任感などを学びました。

小さな手帳に知らない日本語があったら全部メモして、1冊以上になりました。バイト中、料理長に隠れていつも日本語を勉強してました。みんな日本語もたくさん教えてくれました。

多分、日本を好きになったのは間違いなくそこからなんですよ。ああ、日本に来て良かったって。日本語学校も良かったのですが、社会勉強は間違いなくそこでした。

自分も、「郷に入れば郷に従え」ということで、なるべくみんなと同じになるように意識してやっていたので。だから、周囲も、あ、この子は頑張ってるなということで、何かあればすぐに助けてくれました。

もっと日本人と話したいなと思って交流会にも参加するようになりました。

そこから出会った人とつながってどんどんネットワークが広がって。そこで、自分は人とのコミュニケーションが好きなんだと気付きました。出会いがすべてでしたね。出会いがないと何にもなかったと思います。自分で積極的に人と関わりたいと思えば、人も集まるし。

意外かもしれませんが、もともとは高校まで引きこもり。ラジオが友達でした。大学時代も。そうじゃなかったら今も、友人はラジオかもしれません。(笑)

学ぶことがない。日本のIT企業に就職するも3カ月で転職した理由

――日本での仕事はどうでしたか?

日本語学校を卒業後、IT企業に就職することができました。仕事に慣れるまでは大変でした。でも、慣れてきたら効率よくできるようになって、仕事量も少なく感じるようになりました。正直つまらなかった。

基本業務はシステムのカスタマイズでしたので、自分の技術もあまり向上しませんでした。社長にもうちょっと仕事がほしいと相談したものの、状況は変わらず。3カ月後には転職しました。

そもそも、PCの前にじっと座って作業するのがあまり好きじゃなくて。向いてなかったんですね。自分はどちらかというと人とコミュニケーションをとる方が好きで。

いずれは独立したいなという気持ちもあり、そのための人脈やネットワークをつくりたいという目的で、仕事後の空き時間で、ここでも交流会に参加するようになりました。

知り合いの会社から、一緒に働ないかと誘われることもありましたが、最初から自社プロダクトを持つのは危険かなと。私自身ビジネスセンスもないので断りました。周りの知り合いで自社サービスで成功した企業は1つもなかったですし。

これは私の考えなのですが、つくったものより、マーケティング大事だと私は考えています。

日本も同じで、モノづくりは凄いですが、でも販売力では韓国に負けていると思います。モノづくりはもちろん大事なんですけど、結局お客さんのもとに届かなければ意味がないんです。だから、しっかりマーケティングの上でつくられたプロダクトでないといけないと考えています。

やってみなければわからない。わたしの仕事に対する姿勢

日本での就職からベトナムで起業するまで

――運輸会社の営業、そしてベトナム進出の支援をされていらっしゃいますが、エンジニアから営業への転職に抵抗はありませんでしたか?

あまり抵抗はなかったです。それより、自分が営業について興味あるなんて、やってみるまで気づきませんでした。やってみたら面白くて、自分に向いていると思いました。

お客さんと話して、困っていることを聞いて、そこで自分がそれを解決できる提案できたら、自分は人の役に立てると思いました。だから話すときも、頑張って抱えている悩みを引き出すようにしています。とにかく何事もやってみないとわからないなと。

――営業のコツは何ですか?
「知らないとできない」ということです。
提案する商品やサービスは、まず自分がきちんと説明ができるくらい理解しないといけない。まずはその商品やサービスを知ることが一番大事です。最初は興味なくても、人の役に立つから頑張って勉強しようと思うとどんどんその商品(サービス)に対する知識は身につきます。

そして、お客さんの話をよく聞くことですね。それで彼らも言葉にできていないところを感覚として掴んで、もしかして今こういうところで悩んでいますか、という提案ができたらすごく喜んでもらえます。

――初めての営業はどうでしたか?

はじめのうちは専務に同行し、自分はたまに口挟むだけです。答えられるところだけ、答える。20回くらい訪問に同行させてもらい、慣れてきたころに覚えたことそのまま専務の話す通りに話し、それに自分の味付けをするという風な営業をするようになりました。

最初、断られた時はがっかりしましたが、外国人が日本語で営業をしていることに興味を持ってくれるお客さんもいたりして、やっていくうちに面白さがわかってきました。

――ベトナムで起業され、経営者となられましたが、今も大切にしていることはありますか?

運送会社でのベトナム進出のサポートをする傍ら、日系企業のベトナム進出やITサービスを提供する企業を経営するようになりました。

今は経営者として、思うことなのですが、みんなでルールを決めさせるから、自分事になるし、責任が生まれます。上が命令してやらせるのではダメ。管理者の独裁でもなく、放任でもない、監督が重要です。

ベトナム人は特にそうです。自分のものなら一生懸命守るけど、他人のものなら関係ないというか、全然どうでもいいやとなってしまう。いかに巻き込んで自分ごとにしていくかが大切だと思ったんです。

ベトナムと日本の懸け橋は、こうやってつくる

――今後やりたいことは?

自分が、交流会や色々を通して出会った人たちから色々なことを教えてもらったので、その経験を、現在日本で働いているベトナム人やこれから就職や留学で日本に行く人たちに伝えたいと考えています。

その人たちをサポートする体制をつくりたいです。でも、サポートだけでは食べてはいけないし、結局体制を継続していく事は難しいので、サポートをしながら、自分もちゃんと稼げるビジネス、ITとコミュニティを組み合わせたビジネスモデルをつくりたいと考えています。

ベトナムにいるベトナム人が日本へ行きたいと思ったら。まず日本語。そのあとは、人材紹介会社。ベトナム人求職者と日本企業のマッチングサイト。日本に来てもサポートできるコミュニティをつくり、そこで情報を共有したり、アドバイスをもらえたりする環境。それらを今つくっています。

――これから日本にいくベトナム人にはどんなアドバイスをしたいですか?

「シェア」と「オープン」。まずは考え方を変えないといけません。

ベトナム人同士が集まるグループは多いんですけど、国際交流はなかなか少なくて。せっかく日本に来たのにベトナム人と交流するならベトナムにいればいいと私は思うんですよ。日本に来たなら、日本人と交流する。そして自分が相手のこと分からないと相手も自分のこと分かってくれない。お互いの理解が足りないと、仕事もやりづらいし、でもお互い理解ができると、仕事は進めやすくなります。

だからまず自分がオープンになる。まずは自分の姿勢を見せることです。

最初は努力も必要です。私は勝手に自分自身、引きこもりだ、コミュニケーションとるの苦手だとと思ってたけど、やってみたらそうではなかった。やってみないとわからない。

私みたいに最初の一歩踏み出せす勇気がなかった人に、今その考え方を伝えたい。やってみてください、と背中を押す。そういうこともやりたいと思っています。

兄をみて、そして日本で体験して思う、技能実習生について

――現在よく報道されている技能実習生について、どう思いますか?

私自身、留学生時代には日本語が苦手な技能実習生にかわって、相談等の通訳を引き受けることも多かったです。給料の未払い、実習生同士の恋愛禁止、失踪しないように会社にパスポートを預けさせるなど、挙げ始めたらキリがないです。もうこれは立派な人権侵害ですよね。

数多くの相談を聞く中で、会社が実習生をモノや機械としか思っていないことに怒りを覚えました。けれども、この制度は自分一人で変えられるものではありません。サポート機関をつくればいいだけと思うかもしれないけど、言うのは簡単けどやるのはそんな単純じゃない。会社と組合と送り出し機関の関係も複雑です。外国人技能実習生機構(OTIT)も最近できましたが実際にきちんと機能してるかどうかわかりません。っかりとした制度をつくってほしいと思います。

――インタビューメモ――
取材後、ぽつりと話してくださったことがとても印象的である。

地球上でいちばん長く生き残ってきた生物って何か知っていますか?それはゴキブリです。彼らは何でも食べるしどこでも生活できる。それで例えると日本の上司は恐竜みたいです。自分の権威を振りかざすばかりで、まわりの環境に対応していけないと生き残るのは難しい。 そのうち絶滅してしまいますよ。結局、正解とされることが必ずしも正しいとは限らないですよね。日本の正解が他の国では正解じゃないことだって多々あると思うんです。

正解を求めるのではなくて、その時々に応じて柔軟に対応していく力が必要なのかもしれない。

ABOUT ME
鈴木萌
すずきもえ・ライター | 旅行と空芯菜炒めをこよなく愛す。ベトナム好きが高じて大学在学中にOne Terraceベトナムで1年間インターン。復学した現在も、ベトナムを中心に、日本と関わりながら働く外国人のリアルを取材しています。
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