農業の人手不足と後継者不足は1955年以降ずっと続いており、農林水産省によると、2018年における基幹的農業従事者は、前年比3.8%減の約145万人となっています。
農業分野の外国人雇用によく使われる就労ビザにはどんな種類があるのでしょうか。日本の農業の人手不足と外国人雇用の現状について解説し、在留資格「技能実習」と新たに創設された「特定技能」の違いについて申請取次行政書士が徹底解説します。
農業の人手不足と農家の高齢化の現状
農林水産省の「農業センサス」などの資料によれば、基幹的農業従事者数(主に自営農業に従事する世帯員数)は1955年以降ずっと減少しています。 農林水産省の公表した「平成30年度食料・農業・農村白書(2019年5月28日)」によると、2018年における基幹的農業従事者は、前年比3.8%減の約145万人となっています。
農業従事者の高齢化も深刻です。2015年時点での基幹的農業従事者平均年齢は67歳ですが、農林水産省の報道発表資料「農村地域人口と農業集落の将来予測結果について(2019年8月30日)」のグラフによると、農業を営む地域の高齢化は今後30年間にわたって都市部を上回るスピードで進んでいくと予想されています。
農業法人の増加とすすむ農地の集約
基幹的農業従事者数(自営農家)が減少しているのに対し、農業分野の規制緩和で増加しているのは49歳以下の若い農業新規参入者と「組織経営体」です。組織経営体は家族経営ではない農業経営体を指し、法人と非法人があります。2018年度の組織経営体数は前年比1.7%増ですが、このうちとくに法人経営体は前年比4.1%増となっています。組織経営体には「従業員を集めやすい、経営継続がしやすい」などの利点があるとされます。
農業の担い手が集約されるにしたがい、農地の集約も進んでいます。下図のように、経営耕地面積10ヘクタール以上の農業経営者は年々増えており、市町村や都道府県の垣根を越えて農地を展開する農業経営者も増えています。
農業分野の外国人労働者と在留資格
大規模な農業経営者が増えるにつれ、そこで雇用される働き手の「雇用就農者」への需要も高まっています。農林水産省は、2017年時点で約7万人の雇用就農者が不足していると試算していますが、日本国内の労働力では、もはやこのニーズを賄えないのが現状です。このため外国人雇用が進んでいます。
農業分野の外国人労働者は9割が「技能実習生」
農業分野における外国人労働者数は約3万1000人(2018年10月末時点)ですが、そのうち約9割にあたる約2万8000人が技能実習制度による技能実習生です。
技能実習制度とは?
技能実習制度は国際貢献のための教育研修制度です。
「我が国で培われた技能、技術又は知識(技能等)の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う人づくりに寄与する」という趣旨で設立されたため、「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない(法第3条第2項)」という基本理念があります。 しかし、人手不足の日本における外国人単純労働者の雇用に利用されてきた側面もあるとされ、これによる弊害もしばしば指摘されてきました。
技能実習制度の沿革
外国人技能実習制度は1993年に法務大臣告知により在留資格「特定活動」の一類型として創設されました。
技能実習生は研修生扱いであったため、実質的には労働者のような働き方を求められても、制度発足から10年以上も労働基準法が適用されていませんでした。技能実習生に労働基準法が適用されるようになったのは、「出入国管理及び難民認定法改正案」が成立し、在留資格「技能実習」が創設された2010年7月からです。
2016年11月28日に技能実習生の身分の根拠となる法律「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が成立し、技能実習生の保護や悪質な送り出し機関への厳正な処罰が可能となりました。 送り出し機関の適正化を図り、技能実習生から母国語での相談や問い合わせを受け付ける外国人技能実習機構も設立されました。
技能実習制度の農業分野における問題点
農業分野における技能実習制度では、以下のような問題点が指摘されてきました。
⓵少人数による大規模経営に向いていない
技能実習制度では各農家ではなくその加盟する事業協同組合が申請し、申請する事業者の規模(社員数など)ごとに何名の技能実習生の受け入れが可能か決まっています。農地の集約が進み、少人数で経営する大規模農場が増える中では、農場の規模に応じた人数の技能実習生を受け入れることが難しいと言われています。
⓶技能を教えた外国人が定期的に帰国してしまう
技能実習制度下では、研修期間が終わった研修生は母国に帰ってしまいます。しかし、人手不足の農家からは「せっかく教えた技能実習生が帰国してしまうのは困る。農業の基礎がない新人に一から教え続けるのは負担が重く、栽培技術が国外流出する可能性もある」との意見がありました。
新たな在留資格「特定技能」
技能実習制度のさまざまな制度的矛盾が明らかになるにつれ、外国人労働者受け入れのための法整備の機運が高まり、2018年12月の臨時国会において「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が可決成立されました。翌2019年4月1日には、外国人労働者受け入れの新たな在留資格「特定技能」が設立されました。
特定技能が適用されるのは特定産業分野と呼ばれる、人手不足が著しい14分野です。
特定産業分野(2020年3月現在)
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
「特定技能」1号と2号の違い
在留資格「特定技能」には1号と2号があり、農業分野での適用は特定技能1号となります。大きな違いとして、1号は日本での在留期間に上限があり家族帯同が許されず、2号は在留期間に上限がなく家族帯同も可能です。
特定技能1号 | 特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する在留資格 |
特定技能2号 | 特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する在留資格(建設と造船・船舶工業の2分野のみ) |
農業分野で特定技能が適用されるケース
農業分野で特定技能外国人が雇用できるのは、以下の3パターンとなります。
⓵技能実習修了者(耕種農業と畜産農業)が、在留資格「特定技能」へと切り替える場合
⓶海外(中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、タイ、カンボジア、ミャンマー※)または日本国内において行われる、特定技能評価試験や日本語能力評価試験などの合格者を招聘する場合。※2020年3月現在。試験開催国は増える可能性があります
⓷派遣会社から在留資格「特定技能」を持つ外国人を派遣労働者として受け入れる場合
特定技能1号の受入は「支援計画」が必要
技能実習制度で起きたさまざまな問題をふまえ、特定技能1号の外国人を受け入れる場合、外国人の職業生活上の支援だけでなく、日本における日常生活や社会生活の支援を行うための計画(支援計画)を作成して実施しなくてはなりません。
特定技能における支援計画の具体的内容
- 事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(人員整理等の場合)
- 定期的な面談・行政機関への通報
特定技能での受け入れでは、それぞれの農家が受入れ機関として入国管理局の手続きを行います。農家が受入れ機関としてすべての支援を行うのが難しい場合、「登録支援機関(技能実習の管理団体をしていた農協なども多い)」に手続きを委託することも可能です。派遣形態の場合は派遣会社がこれらの支援を行います。
特定技能制度のルールと負担増について
特定技能制度では、以下に挙げたルールを守らなくてはなりません。
- 労働関係の法令を遵守すること
- 同一労働同一賃金に基づき、報酬等に関する差別的な待遇は禁止
- 同じような業務を行っていた人を解雇し、特定技能外国人に入れ替えるのは原則不可
- 登録支援機関は不適切な受入機関を通報しなくてはならない
- 外国人も自由に転職ができる
入管による監視体制も強化されていますので、受け入れる側の負担は増えているといえるでしょう。
農業分野での外国人活躍の枠組み作りとは
特定技能1号で農業に携わる外国人は滞在年数に上限があり、農家の後継ぎ的な立場でずっと働いてもらうことはできません。日本人の若者の農業参入促進、農業法人の育成、耕作放棄地への税制整備などで枠組みをつくり、日本の農業にとっても外国人労働者にとってもベストな働き方を模索していくことになるでしょう。
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