在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、日本の企業で働く外国人がよく利用する就労ビザです。短大、大学、大学院、日本の専門学校を卒業した外国人に付与されます。しかし「大卒外国人材なのに、ビザが下りなかった」というケースはあとを絶ちません。
この記事では、技能実習生や留学生アルバイトから「技術・人文知識・国際業務」に在留資格変更が可能か?また、申請に失敗する理由は何か?といった疑問について、モノづくりを行う製造業を舞台にしたわかりやすいケーススタディで取次申請行政書士がご説明します。
優秀な技能実習生Bさんのケース
地方でモノづくり企業を経営している日本人経営者のAさんは、工場での人手不足に悩み、ベトナム人技能実習生の受け入れに踏み切りました。彼らは若く、働きぶりも真面目、能力も高かったため、Aさんは技能実習生を正社員として雇用したいと考えるようになります。
ベトナム人技能実習生の中でもとくに優秀だった技能実習生Bさんにこの話をしたところ、Bさんも大変喜び、自分が母国で理系大学を卒業した技術エンジニアだったことを伝えます(なぜかAさんの手元にある履歴書には違う職歴が書いてありました)。正社員雇用の話はうまくいきそうに思われました。
しかし、Bさんを長期雇用するために在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更申請をしたところ、出入国在留管理局からの答えは「不許可」となりました。
Bさんの在留資格変更が失敗した理由とは?
Bさんは技能実習生として来日しました。製造業の場合、まずは技能実習生として現場経験を学び、その後、管理者として「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に変更、改めて来日するというケースはありえます。同一業種であっても業務範囲や内容によって適正な在留資格が異なるのです。
Bさんの場合、最初に現場経験をする間は、労働内容が在留資格「技術・人文知識・国際業務」になじまず、「技能実習」のほうがあっていました。管理者となれば「技術・人文知識・国際業務」に変更するのが妥当です。
しかし就労資格変更が必ずうまくいくとも限りません。技能実習制度は「日本で学んた技能をベトナム本国に移転する*1」という建前があります。このため技能実習生は母国に帰国することが前提で、再来日には一定期間のクールタイムが要求されるのが通常です。技術移転のための時間が必要という建前だからです。
また、今回のケースで大きな問題なのは、Bさんが母国で利用した技能実習生の紹介会社が、Bさんの経歴を偽って日本側に通知していた点です。
*1:例外はありますが、今回は例外にあてはまりません
将来有望な留学生アルバイトCさんのケース
引き続き、地方でモノづくり企業を経営している日本人経営者のAさんの話に戻ります。Aさんの会社では、技能実習生だけでなく留学生のアルバイトも雇っています。
地方大学の留学生Cさんは日本語も上手で、最初は少し事務を手伝ってもらう程度のつもりでしたが、その優秀さを見るにつけ、大学卒業と同時に正社員採用を考えるようになりました。技能実習生Bさんの在留資格変更で失敗していたAさんは、Cさんのケースも難しいのでは…と不安を感じて、知り合いの行政書士に手続きの依頼をすることにしました。
大卒の外国人を正社員として長期間雇用するために「技術・人文知識・国際業務」という在留資格が選択できるとは学んだものの、必要書類をそろえるなどの手続きが自社では追いつかないような気がしたためです。
しかし、結果からいうと、Cさんは申請不許可となりました。Aさんが行政書士に理由を聞いても、いまひとつ納得感のある説明が得られず、Aさんは外国人を雇用する手続きの難しさに頭を抱えてしまいます。やがてCさんは大学を卒業し、留学ビザが切れるタイミングで母国に帰ってしまいました。
Cさんの在留資格変更が失敗した理由とは?
Cさんの在留資格「留学」から「技術・人文知識・国際業務」に在留資格を変更することは一般的です。
それにもかかわらず、Cさんの在留資格変更に関する申請が不許可となったのは、2つの可能性が考えられます。
- Aさんの会社には「技術・人文知識・国際業務」に対応する業務がなかった
- 対応する業務はあったが、地方出入国在留管理局(在留資格に対する手続きを担当する役所)に適切に伝えられなかった
在留資格に関する手続きは、他の行政手続きと比べて非常に特殊な面があります。担当した行政書士が、入管法や在留資格関連手続きなどの就労ビザに詳しくなかったため、適切な立証や説明が出来なかった可能性も考えられます。
ちなみに、Cさんは「技術・人文知識・国際業務」への変更だけでなく、適切な就労先を探すための就職活動を目的とした「特定活動」という在留資格に変更できる可能性もありました。依頼した行政書士がそのような提案をできれば、帰国すること無く現在も日本で活躍することができたかもしれません。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは?
「大学卒で優秀な外国人」を長期的に雇用する場合、在留資格「技術・人文知識・国際業務」がよく利用されます。入管法によれば「技術・人文知識・国際業務」保有者が日本で行える業務内容は、以下のように定義されています。
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動
わかりやすい例を挙げれば、以下のような業務内容です。
「技術・人文知識・国際業務」の3つの活動内容
カテゴリー | 業務内容 | 特徴 |
技術 | 機械系エンジニア、電子電気系エンジニア、システムエンジニア、プログラマーなど | おもに理系の学部学科出身者が従事する技術職 |
人文知識 | 営業や企業の経理、法務、マーケティング担当、貿易業務、コンサルタント | 理系・文系学科卒業者が従事するオフィスワーク |
国際業務 | 翻訳通訳、語学教師、海外取引業務担当者、デザイナー、マーケティング担当者 | 海外の文化に基盤を持つことで生まれる思考や感受性が必要な仕事 |
在留資格「技術・人文知識・国際業務」を保有する外国人を活用できる幅は広く、企業での採用でもっともよく利用される在留資格といえます。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」の基準
在留資格「技術・人文知識・国際業務」を申請するには、どのような条件満たしていなくてはいけないのでしょうか?法務省令によれば、以下のように定められています。
「技術・人文知識」
申請人が 自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務に従事し
ようとする場合 は、従事しようとする業務について、 次のいずれかに該当 し、これに必要な技術又は知識を修得していること。
イ:当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学を卒業し、又はこれと同等以上の教育を受けたこと。大学は通信大学や短大、一部の高等専門学校を含む。学士又は準学士を取得していると規定の学歴を修了した判断がし易い。) |
ロ:当該技術又は知識に関連する科目を専攻して 本邦の専修学校の専門課程を修了 (当該修了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)したこと。 |
ハ:十年以上の実務経験 (大学、高等専門学校、高等学校、中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該技術又は知識に 関連する科目を専攻した期間を含む 。)を有すること。 |
IT業界は例外
申請人が情報処理に関する技術又は知識を要する業務(いわゆるIT系エンジニア業務)に従事しようとする場合で、法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験に合格し又は法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する資格を有しているときは、この限りでないとされます。
国際業務
申請人が 外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合、次のいずれにも該当していること。
イ:翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。 |
ロ:従事しようとする業務に関連する業務について三年以上の実務経験を有すること。 ただし、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合はこの限りでない。(大学のみ、専門学校は含まない) |
日本人と同等の報酬
日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
「技術・人文知識・国際業務」申請失敗の理由
日本人経営者Aさんの会社で働いていた、技能実習生Bさんと留学生Cさんの話に戻ります。技能実習生Bさんは母国で理系大学を卒業したエンジニアでした。また、留学生Cさんは日本の大学を卒業しました。
Aさんは今後のためにも、大卒外国人のための在留資格「技術・人文知識・国際業務」の申請がうまくいかなかった理由を、もっと具体的にはっきりさせたいと勉強を始めました。
Aさんが2人の不許可で地方出入国在留管理局(以下、「入管」と略します。)の審査官から受けた指摘には、
「申請人の行う業務は技術・人文知識・国際業務の定める活動に当たらない。」
とあり、
「活動が単純労働に該当する。」
との指摘もありました。
この「単純労働」がキーワードとなります。
「技術・人文知識・国際業務」≠「単純労働」
入管は「技術・人文知識・国際業務」に該当しない活動を「単純労働」という言葉で表現することが多いのです。
「技術・人文知識・国際業務」≠「単純労働」
つまり従事する予定の業務内容が単純労働とみなされてしまうと、申請がうまくいかないのです。入管でいう単純労働について、掘り下げて見ていきましょう。
入管でいう「単純労働」とは?
入管より単純労働として指摘される業務内容には、以下が考えられます。
- 一般的なアルバイト従業員、パート従業員で簡単に代替可能な業務
- 同一の行為を反復し続けることで報酬が得られる業務
- マニュアルから逸脱することなく遂行するだけの業務
現場労働(工場勤務など)は単純労働のイメージで受け取られる風潮もあり、「技術・人文知識・国際業務」の申請において「現場労働だけれども単純労働と言えない場合」は、入管に業務内容を丁寧に説明することが必要となります。
オフィスワークでも「単純労働」とみなされる
オフィス労働であっても単純労働に当てはまると入管が判断すれば「技術・人文知識・国際業務」に該当しない業務として不許可判断が下されることがあります。
経営者Aさんは、留学生Cさんを「入社後どんな仕事に従事させるか」という点を漠然としか考えておらず、「今アルバイトとしてやっている仕事を引き続きやりながら、少しづつ仕事の幅を広げていってもらう」と入管に伝えたため、単純労働とみなされてしまったのです。
モノづくり企業の「技術・人文知識・国際業務」申請には丁寧な説明が必要
「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務とは、「単純労働」の逆を考えれば良いのです。業務上各者の責任ある判断が要求されたり、業務遂行上の創造性が問われます。
また、業務パフォーマンスを向上させるために学問的知識のあることが有利になる場合、「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務として取り扱われる可能性が高いでしょう。
Aさんの会社のようなモノづくり企業においては現場において、顧客との打ち合わせから、設計、製造、検品、納品と多くの業務フェーズがあります。相当の学問的知識と創造性、判断力が要求される業務もあれば、同一行為を反復するだけの業務もあるでしょう。技能実習生が主に行うような「単純労働」的業務と創造性と学問的知識を必要とする「技術・人文知識・国際業務」が混在する現場であると想像されます。
こういったモノづくり企業では申請時に丁寧な説明が必要です。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」の申請には在留資格に詳しい行政書士を
ここまで見てきたように、入社後は企業内で幅広い業務に従事することが可能な在留資格「技術・人文知識・国際業務」ですが、その申請には外してはならないコツがいくつもあります。
法律理解と入管の考え方を的確に押さえ、きちんとした手続きをできなかったために、コストと時間をかけて選考、内定した候補者が入社に至らないケースは多いのです。
行政書士は、法律に則り許認可手続きを専門として行う法律専門職です。また、紛争性のない法律事務を行うこと(契約書等の権利義務に関する書類作成や事実証明に関する書類の作成等)も行政書士の仕事です。このため、行政書士の仕事の範囲はとても幅広く、必ずしも行政書士全員が外国人の在留資格に関する知識があるとは限りません。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」取得のためには、就労ビザなど在留資格手続きの経験豊富な行政書士を利用することが近道といえるでしょう。
出典資料:行政書士明るい総合法務事務所作成資料「在留資格(ビザ)について」
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