就労ビザ(在留資格)

「高度専門職」だけじゃない!「高度人材」を徹底解説

高度人材とは「高度外国人材」の略で、専門的知識や技術力を持つ外国人を一般的に指します。しかし、在留資格「高度専門職」の保有者を限定的に指す場合もあり、どちらを意味するのか混乱しがちです。ここでは日本における高度人材の受け入れ強化政策の経緯と、高度人材雇用のための在留資格について「高度専門職」と「技術・人文知識・国際業務」を中心に申請取次行政書士がご説明します。

「高度人材」と「高度人材ポイント制」の違い

「高度人材」という言葉は、専門的知識や技術力を持つ外国人材一般を広く指します。高度人材の中でも特に学歴や年収、日本語能力などで際立った外国人に優遇措置を与える在留資格が「高度専門職」で、これを取得するために使われるのが「高度人材ポイント制」です。

「高度専門職」と「高度人材」は語感が似ています。また、在留資格「高度専門職」が創設されるまで「高度人材」と呼んでいた時期があるため、今でも「高度人材」というと在留資格「高度専門職」の保有者を指すことがあります。

しかし、広い意味での「高度人材」には、在留資格「技術・人文知識・国際業務」の保有者や、その他の専門的・技術的分野で活動を許可されている在留資格保有者もふくまれます。

  • 専門的・技術的分野に該当するおもな在留資格の一覧表
在留資格具体例
教授大学教授など
高度専門職ポイント制による高度人材
経営・管理企業などの経営者や管理者
法律・会計業務弁護士、公認会計士など
医療医師、歯科医師、看護師
研究政府関係機関や私企業などの研究者
教育中学校・高等学校などの語学教師など
技術・人文知識・国際業務機械工学などの技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者など
企業内転勤外国の事業所からの転勤者
介護介護福祉士
技能外国料理の調理師、スポーツ指導者、航空機の操縦者、貴金属などの加工職人など

高度人材の受け入れ強化が始まったのはいつ?

高度人材の受入れ強化が始まったのは、2008年~2009年にわたり内閣府が主宰した「高度人材受入推進会議」からといえます。

この会議には内閣官房長官や特命担当大臣といった関係閣僚をはじめ、各省庁(内閣府、総務省、法務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省)からの代表が参加し、幅広い分野(経済団体、労働団体、グローバル企業、大手外資系コンサルティングファーム、有名国立大学など)から有識者が招聘されました。

少子高齢化がすすみ、世界的な人材獲得競争にも出遅れていた日本が、国の経済を支える「イノベーション人材」などの高度外国人材を、いかに獲得していくかの枠組み作りが協議されました。

「高度人材受け入れ推進会議」の最終報告

高度人材受入推進会議は2008年12月から翌2009年5月まで、全6回の実務作業部会をふくめて開催されました。以下は2009年5月29日に発表された最終報告書「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」です。重要と思われる事項を見てみましょう。

①高度人材採用を国家戦略として位置付ける

少子高齢化とグローバル化が進展するなか、外国高度人材の発想や能力、経験を活用したイノベーションは我が国(日本)の持続的成長のために必要と明記されています。

外国高度人材の受入推進を成長戦略の重要な一翼として位置付け、国民的コンセンサスを得た上で中長期的観点から高度人材の受入れを進めていく必要がある。

「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」から抜粋

報告の最終部分にもさらに繰り返して「我が国が人口減少、少子高齢社会の中でも活力を維持し、持続的な経済成長を遂げるために、(高度人材の受け入れを)国家戦略として実行していく」と記載されています。

②アジア諸国からの受入れを重視する

受入れの重点分野を定めて、基本目標を「優秀な人材をできる限り多く、できる限り長く受け入れる」に置く。今後、我が国がアジアとともに発展することを目指し、高度人材受入れにあたっては、欧米諸国とのバランスも考慮しつつ、アジア諸国からの受入れをより重視する。

「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」から抜粋

本当にアジア諸国からの高度人材は増加しているのでしょうか?厚生労働省の発表している「外国人雇用状況(令和元年10月末現在)」でアジア諸国からの高度人材の受け入れ状況を見てみましょう。

日本で働く外国人労働者数が多い国

国名人数(人)全国籍中割合前年同期比
1位中国41万832725.2%7.5%増
2位ベトナム40万132624.2%26.7%増
3位フィリピン17万968510.8%9.6%増

中国、ベトナム、フィリピンからの外国人労働者は全体の60.2%を占め、アジア諸国からの外国人労働者は非常に多いことがわかります。

日本で働く外国人労働者が増加している国

国名人数(人)前年同期比
1位ベトナム40万132626.7%増
2位インドネシア5万133723.4%増
3位ネパール9万177012.5%増

外国人労働者の送り出し数が増加している国も、アジア諸国だとわかります。ここまで見てきたのは在留資格で切り分けしていない外国人労働者の総数です。次に、高度人材の輩出国の上位3位を見てみましょう。

日本で働く高度人材の多い国

国名高度人材の数(人)うち「技術・人文知識・国際業務」(人)
1位中国11万48569万6702
2位ベトナム4万91594万5114
3位韓国3万12082万7654

高度人材の輩出国も、アジア諸国が多いことがわかります。とくに、日本国内で急速に増えているベトナム人労働者は、高度人材の数でも中国(香港などふくむ)に次ぐ2位となりました。これは「G7/8+オーストラリア+ニュージーランド」の高度人材総数(4万7481人)を超える人数となっています。

出典元:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)別表1出典元:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)別表1

③留学生受け入れを重視する

高度人材受入推進会議では、留学生を「高度人材の卵」と位置付け、積極的な支援をするとしています。

留学生は「高度人材の卵」として重視すべき存在と位置付け、官民一体となって受入環境づくりや日本語教育の強化も含めた重点的な支援(日本語能力試験の活用や奨学金制度の改善・活用、住居支援、就職支援など)を行う。

「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」から抜粋

この方針と連携し2008年に外国人留学生を積極的に受け入れる「留学生30万人計画」が発表されました。文部科学省に掲載された「留学生30万人計画 骨子」では以下のように示されています。

日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界との間のヒト、モノ、カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として、2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指す。その際、高度人材受入れとも連携させながら、国・地域・分野などに留意しつつ、優秀な留学生を戦略的に獲得していく。また、引き続き、アジアをはじめとした諸外国に対する知的国際貢献等を果たすことにも努めていく。

文部科学省ホームページ「留学生30万人計画 骨子」より抜粋

④高度人材受け入れは海外のポイント制を見習う

同会議では高度人材受け入れのために諸外国の法的な枠組みも参照されました。

出典元:内閣府発表「高度人材の受入れの現状と課題(資料2)」平成20年12月2日 より抜粋引用出典元:内閣府発表「高度人材の受入れの現状と課題(資料2)」平成20年12月2日 より抜粋引用

同最終報告書ではこれらの法的枠組みのうち、とくにイギリスの「高度技能移民プログラム(HSMP)」に言及しています。これは同会議終了後に創設された在留資格「高度専門職」にも影響したと考えられます。

「ポイント制導入」による「高度人材優遇制度(仮称)」の創設(例えば、イギリスでは高度人材の受入れに当たって、受入階層を 5 階層に分け、NVQ(National Vocational Qualification:全国職業資格)に基づく上位 2 階層の職種について、基準の明確化や手続の迅速化を図るためにポイント制を導入している。)

「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」から抜粋

在留資格「高度専門職」の新設

高度人材の受け入れを促進するため、出入国在留管理上の優遇措置制度が2012年5月7日より導入されました。これが在留資格「高度専門職」となります。

「高度専門職」ではイギリスの制度に倣い、ポイント制を活用しています。高度人材の活動内容を3つに分類し、「学歴」「職歴」「年収」それぞれのポイントの合計が70点に達することが条件です。

高度人材の3つの活動内容

高度人材の活動内容3つとは、「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」です。それぞれを表にまとめると以下になります。

活動内容在留資格
高度学術研究活動「高度専門職1号(イ)」本邦の公私の機関との契約に基づいて行う研究、研究の指導又は教育をする活動
高度専門・技術活動「高度専門職1号(ロ)」本邦の公私の機関との契約に基づいて行う自然科学又は人文科学の分野に属する知識又は技術を要する業務に従事する活動
高度経営・管理活動「高度専門職1号(ハ)」本邦の公私の機関において事業の経営を行い又は管理に従事する活動

在留資格「高度専門職」1号と2号の違い

前出の在留資格「高度専門職1号」に加えて「高度専門職2号」という資格もあります。これは「高度専門職1号」として3年以上活動を行った外国人を対象として付与されます。

在留資格「高度専門職」の優遇措置とは?

在留資格「高度専門職」を持つ外国人への出入国在留管理上の優遇措置を見てみましょう。日本での長期滞在と豊かな人生設計が可能で、早期の永住許可すらも視野に入れられるように取り計らわれています。

「高度専門職1号」への優遇措置

  1. 複合的な在留活動の許容
  2. 在留期間「5年」の付与
  3. 在留歴に係る永住許可要件の緩和
  4. 配偶者の就労
  5. 一定の条件の下での親の帯同
  6. 一定の条件の下での家事使用人の帯同
  7. 入国・在留手続の優先処理

「高度専門職2号」への優遇措置

  • 「高度専門職1号」の活動と併せて、ほぼ全ての就労資格の活動を行うことができる
  • 在留期間が無期限となる
  • 「高度専門職1号」への優遇措置③~⑥が引き続き受けられる

国家戦略特区におけるポイントの緩和

「高度専門職」のポイント制では「学歴」「職歴」「年収」の各ポイントの合計として70点が求められますが、2019年3月から国家戦略特区ではこのポイントが緩和される特例が設けられました。

「特区内の地方公共団体が支援または認定する企業等で働く外国人には、10点の特別加算が認められ*注」ることとなり、東京都での実施も決定されました。つまり、東京都では60点のポイントがあれば在留資格「高度専門職」が付与されるのです。

*注:内閣府 地方創生推進事務局 国家戦略特区のフェイスブックページより引用

在留資格「技術・人文知識・国際業務」

高度人材受け入れのために整備された、もうひとつの重要な在留資格が「技術・人文知識・国際業務」です。もとは在留資格「技術」と「人文知識・国際業務」の2つだったものが「高度人材受け入れ推進会議」後の2015年に一本化されました。

在留資格「技術・人文知識・国際業務」は大卒等の外国人材が幅広く活躍できる環境を作りました。在留資格「技術」は理系的知識を要する業務、「人文知識・国際業務」は文系的知識を要する業務、とされていた壁を取り払ったのです。

「技術・人文知識・国際業務」の3つの活動内容

カテゴリー業務内容特徴
技術機械系エンジニア、電子電気系エンジニア、システムエンジニア、プログラマーなどおもに理系の学部学科出身者が従事する技術職
人文知識営業や企業の経理、法務、マーケティング担当、貿易業務、コンサルタント理系・文系学科卒業者が従事するオフィスワーク
国際業務翻訳通訳、語学教師、海外取引業務担当者、デザイナー、マーケティング担当者海外の文化に基盤を持つことで生まれる思考や感受性が必要な仕事

在留資格「技術」と「人文知識・国際業務」の一本化後は、外国人も企業内のより広い職務に従事することが可能となりました。企業での大卒人材採用においてもっともよく利用される在留資格といえます。

高度人材の導入における課題

日本の高度人材導入における最大の課題は外国人の積極的な受け入れ議論に一般市民が参加しないまま10年以上が経過してきたことといえます。高度人材受入推進会議は非公開で行われ、その後の日本の政策に大きな影響をもつ決定を下した会議といえます。

日本国内での少子化対策、若者の教育向上の施策、女性や高齢者への雇用創出が、高度人材の導入と足並みをそろえて実施されることが大切です。

ABOUT ME
監修者プロフィール 長岡 由剛(ながおかよしたけ)
特定行政書士(行政に対する不服申し立て代理人権限をもつ行政書士)。行政書士明るい総合法務事務所代表。ビザや外国人関連法務を年間1,000件以上手掛ける。在東京タイ王国大使館(TNJ主催)、行政書士稲門会東京都行政書士会品川支部等でも講師をつとめる。タイ人を中心に、外国人が安心して暮らせるための支援を行っている。モットーは「外国の方にとって、日本がもう一つの故郷になりますように、プロの矜持と共に敬意を込めて」
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