日本の製造業における人手不足は深刻で、「ものづくり白書(2019年度)」によれば約95%の日本企業において人材不足が表面化しているとされています。
この記事では日本の製造業が人手不足にどう対策していくべきか、「IT導入」と「外国人材の導入」からご説明します。また、製造業における外国人材の在留資格ごとの特徴、高度人材採用のメリットもまとめました。
2019年度版「ものづくり白書」から見る製造業の人手不足
最新の2019年版「ものづくり白書」によると、約95%の日本企業において人材不足が表面化しています。特に「確保が課題」とされているのは「技能人材」と呼ばれる人材層です。中小企業庁の定義によれば、技能人材とは「研究業務、製品開発・技術開発業務、品質・生産管理業務、製造・加工業務の4業務に従事する従業員」とされます。製造業のほぼ全てといえる幅広い分野において、必要とされる人材が不足しているのです。
製造業が向き合う外部環境変化7つ
日本の人材不足の大きな原因は2つあるといえます。少子高齢化と外部環境の変化によるものです。ベテラン人材は毎年引退していくが、若手を育てようにも採用難で思うような人材が取れない。また、外部環境の変化によって求められる人材の質も大きく変わっている、という状況です。
製造業を取り巻く外部環境の変化について、くわしく見ていきましょう。日本の製造業が20〜30年後の未来に向けて発展するための7つの課題が「2040年ものづくり未来洞察調査(経済産業省 中部経済産業局 2016年8⽉1⽇に発表)」にまとめられています。
①社会のデジタル化・ソフトウェア化に伴う消費の⾼度化への対応
双方向メディアであるインターネットの普及により、顧客からのフィードバックがものづくりの現場に強い影響力を持つことになります。カスタマイズ志向の高まりやアフターサービスへの細やかな対応などです。トレーサビリティや流通管理の精度も上がり、そこから集められたビッグデータを効率的に扱うことが必要となっていきます。
②デジタル技術による擦り合わせ・カイゼンのコモディティ化への対応
日本の製造業が得意としてきた「擦り合わせ」が「ハード+ハード」から「ハード+それを動かすソフト」になっていくことが予想されます。また、「カイゼン」といった手法もデジタル技術を通じて世界中で導入が可能となり、日本の製造業の優位性保持が難しくなっていることに向き合わなくてはなりません。
③⽣産技術・材料技術のイノベーションの取り込み
生産技術や材料技術が飛躍的または非連続的にイノベーションを起こす時代には、これら最先端の技術を理解して生産現場に取り込むことができる、またはこれらを活用し自社製品化できるハイレベルな技術者が必要となります。
④製造現場のデジタル化・ソフトウェア化への対応戦略課題
製造現場がデジタル化、ソフトウェア化されますので、IoT(Internet of Things)やビッグデータ分析を通して生産管理システムや工程管理システムに取り込んだり、それらを操作するためのソフトウェアを操る技術者が必要性となります。
⑤⼈材の質・量の不⾜への対応
工場で働く人材の中には生産技術のIoT化にキャッチアップしていく、ハードとソフトを両面から理解したハイレベルなエンジニアと、生産現場で機械にとって代われない作業を担う人員の2タイプの人材が必要となります。
⑥資源制約・CO2フリーへの対応成⻑市場の取り込み
世界的な環境意識の高まりにより、企業にもSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を意識した経営が求められています。しかし同時に新しく経済力をつけた地域にいち早く対応し、市場開拓をしていかなくてはなりません。
⑦リスクマネジメントへの対応
グローバルな生産ライン、サプライチェーンを持つことは自然災害だけでなくテロや地域紛争へのリスク対応も必要となります。またIoTの弱点であるサイバーリスクなどにも対応しなくてはなりません。
製造業の人手不足対策①IT化の推進
ここからは日本の製造業における人手不足解消の具体的な対策を見ていきましょう。
まず期待されるのはIT化です。日本企業では従来、技能人材の不足をベテラン人材の定年延長などにより補ってきましたが、ビッグデータの解析能力やセンシング技術の進歩により「経験や勘」の数値化が進んでいます。このため欧米のようにITの活用やロボットの導入で技能人材の不足を補うことが期待されています。
「Connected Industries」というコンセプト
日本政府は2017年3月に行われたドイツ情報通信見本市(CeBIT)において、日本の製造業の目指すあり方として「Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)」というコンセプトを発表しました。人と機械、技術が国境を越えてつながろうという考え方です。
「Connected Industries」の3つの柱
- 人と機械・システムが協調する新しいデジタル社会の実現
- 協力や協働を通じた課題解決、
- デジタル技術の進展に即した人材育成の積極推進
安倍晋三首相による演説も行われ、「ITによって企業や国がつながることが繁栄につながる」「ロボットやAIの導入は人間の職を奪うことにはならない」という考え方が表明されました。
ロボットやAIの活用に必要な「人材育成」と「人材の再配置」
「Connected Industries」への取り組みはまだ始まったばかりといえます。しかし、このコンセプトの導入で注目されるのは、ロボットやITを積極的に製造業に取り入れていくためには、それを指揮する「人材育成」や「転職による旧型産業からの人材再配置」が重要とされている点です。人手不足を解消するためのロボットやIT技術には、それらを使いこなせる専門的・技術的分野の人材が必要なのです。
製造業の人手不足対策②外国人労働者の導入
製造業の人手不足を解消するもうひとつの手段として、外国人労働者の導入が挙げられます。ここからは日本の製造業における外国人材の受け入れ状況と、受け入れている外国人材層について見ていきましょう。
ここ数年で増え続ける外国人労働者数の推移
厚生労働省が発表した「外国人労働者の現状(令和元年10月末現在)」によると、外国人労働者の数は前年度比13.6%の増加となっています。在留資格から見ると過去5年で大きく増加したのは、技能実習生と資格外活動(留学生のアルバイトなど)ですが、専門的・技術的分野の在留資格も着実に増加していることが読み取れます。
骨太の方針2018(経済財政運営と改革の基本方針)
外国人労働者の受け入れ拡大が始まったのは、安倍政権による「骨太の方針2018」発表からです。「日本社会における外国人との共生」が明記され、日本の持続的な発展のために外国人労働者を導入する方針が打ち出されました。しかし、日本の製造業に外国人材を導入することの検討はすでにかなり前から始まっていたことが2008年の内閣府による「経済財政白書」の記述からわかっています。
高度人材(高度外国人材)は経済成長に大きく貢献
外国人労働者という言葉には専門的・技術的なスキルを持つ高度人材と単純労働者の双方が含まれていますが、内閣府による「経済財政白書」では、とくに高度人材の導入が経済成長に大きく影響する可能性が指摘されていました。
高度人材とはおもに「専門的・技術的分野」と呼ばれる分野において仕事をしている中長期滞在の外国人です。「技術・人文知識・国際業務」と呼ばれる就労ビザ(在留資格)を付与されている人が多く、日本における外国人労働者の約2割を占めます。製造業を技術的に支えるだけでなく、ビジネスの海外展開を担う人材としても期待されています。
「専門的・技術的分野」に分類される在留資格一覧
- 技術・人文知識・国際業務
- 高度専門職
- 教授
- 経営・管理
- 法律・会計業務
- 医療
- 研究
- 教育
- 介護
- 技能
- 企業内転勤
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高度人材は近年、世界的に獲得競争が激化しており、採用に際しては日本国内だけでなく海外の企業もライバルとなる可能性があります。日本でも海外で直接採用をする企業が増えています。
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新たに創設された「特定技能」
「骨太の方針2018」に表明された「従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく」という考えのもと、2018年12月には新たな在留資格として「特定技能」が創設されました。この在留資格は、とくに中小規模事業者や製造業の人手不足解消につながると期待されています。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」があります。「特定技能1号」は既存の在留資格「技能実習2号」からの切り替えが可能とされており、技術的・専門的分野外の外国人労働者を受け入れる在留資格は「研修生→技能実習生→特定技能ビザ」と変遷しているのがわかります。
日本の「モノづくり」を支える高度外国人材
日本の製造業の人手不足は「人数の不足」だけでなく、「求められる人材の質の変容」という、質と量2つの要因が重なって起きています。これらを解消するために積極的にITを導入し、生産現場の機械化を進めていかなくてはなりませんが、その実現には、専門的・技術的分野のスキルを持つハイレベルな人材が多く求められます。
しかし、日本国内の若い技術者が奪い合いとなっている現状において、日本人採用だけでは企業の人材ニーズが満たされない可能性は高いといえます。IT技術者や生産技術者などの高度外国人材を現地から直接採用することが、日本企業にとっても大きな選択肢となりつつあるのです。
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